ドラマ『ブラッシュアップライフ』から考える、私はどう生きるのか

2024.01.21

年末年始に会った友人に、ことごとく「絶対に観て!」と強く勧められたのが、ドラマ『ブラッシュアップライフ』だった。2023年1月期にバカリズム脚本、安藤サクラ主演で放映されていた。面白くないわけがない。
普段ドラマや映画を習慣的に観ることはないのだが、あまりにも勧められるので今さらながら観てみることにした。

友人たちが言っていた通り、ドラマの中にはアラサー女が懐かしさに悶える描写が多すぎた。プロフィール帳、ANGEL BLUEのナカムラくん、たまごっちなど……。カラオケで選曲される歌でさえも「懐かしい!」と「それ選びがち!」というもので溢れていた。そしてその曲順さえも。シール交換に至っては、実際に経験した者にしかわからない、細かい気遣いまでご丁寧に描かれていた。この頃から女子たちは自分と相手の関係性を瞬時に感じ取り、分析し、空気を読んだ交換シールを選ぶという、暗黙の接待ルールを習得しているのである。タイルシールとフェルトシールは、シール界ヒエラルキーの最上位に君臨しており、それと交換してもらおうもんなら、それ相応のシールを手持ちから手放さなければならない。私はモー娘。のカード交換でもそれを感じたことがあった。人気メンバーのカードが欲しければ、それ相応のメンバーと交換をするか、他のメンバーで交渉する場合は1枚に対してこちらは3枚差し出さないといけない……など、絶妙な駆け引きが行われていた。ある意味ビジネスの現場で行われる交渉のようなものが、すでにこの年齢で行われていたのだ。

女は何歳からでも女である、ということをしみじみと感じたと同時に、こんな細かい描写も、私を含め周りの友人たちは「わかる……」と強く心を打たれてしまうあたり、同世代ではないバカリズムのリサーチ力に溢れんばかりの賛辞を送りたい。めちゃくちゃ響いて悶えるものばかりでした。あっぱれ。

『ブラッシュアップライフ』は交通事故で死んでしまった安藤サクラ演じる主人公が死後の世界で、案内人から「来世はアリクイか今世のやり直しか」と伝えられ、人生2周目をスタートさせることから始まる。来世は何になるか、というのは人生の徳によって決まるため、来世も人間になるために、2周目の世界でひたすら徳を積むことを意識して生きるのだった。

結果、5周目までするのだが、先に述べたアラサー女が悶える描写で楽しませられるだけでなく、自分の生き方について大いに考えさせられるドラマであった。

もし私としての人生を最初からやり直せるとしたら、私はどう生きるだろうか?

正直、小学生から中学生にかけては黒歴史でしかないので、後悔はたくさんあるが、もう1度やり直すことなくすっ飛ばしたいのが本音である。しかし、ブラッシュアップライフのルール的には、生まれた瞬間からやり直さなければならないので、すっ飛ばすにすっ飛ばせない。
我が家は徒歩圏内にも自転車圏内にもコンビニがないところに家があり、今のようにスマホやパソコンが家にあるのが普通ではない時代だったので、私の世界もそれはそれは狭いものだった。ただでさえ狭い世界で生きていたくせに、加えて外に出たがらないという引きこもり気質でもあった。自分の部屋に引きこもり、ひたすら『ちゃお』や『なかよし』を読んでいて、絵を描くことも好きだったので真似て漫画も描いたりしていた。おジャ魔女どれみは、おんぷちゃんが好きだった。陰キャのくせに、陽キャに対する憧れはあったみたいだ。中学ではなぜか、校内でも1・2を争うハードな運動部に入ってしまった。今戻るなら違う部活に入るだろう。絶対に。もともと引きこもりで「動く」という行為が嫌いなくせに、なぜそんなところに自分自身をぶっこんだのか、変なところのマゾ気質も、この頃からしっかり持ち合わせていたのかもしれない。

もうハードな部活には入らないと決めていたのに、学ばないマゾ気質の私は高校でも校内1・2を争うハードな運動部に入ってしまった。テスト期間も関係なく部活があり、年間通して休みは大晦日と元日の2日だけだ。公立高校なのに。入試で高校が使えない日は、顧問がご丁寧に部員たちの母校の中学に根回しをしており、中学の部活に参加させられた。ここまでで、私は一生分の運動をしたと思っている。ああ、懐かしいけど戻りたくはない。

大学以降も、遡り始めるとキリがない。約32年生きているが、それでも人生を遡ると、見知らぬ人からしたら興味も湧かないだろうが、自分としては嫌々ながらもいろいろな経験はしてきているのだなと思った。しかし2周目ができるとなると、同じ人生は辿らない……というか、辿りたくはないので、それで多少将来が変わってしまったとしても、どうにかして過去のいろいろなものを回避しようとするだろう。

今の記憶を持ったまま生まれ変われるので、まずは幼少期からの私の最大のコンプレックスであった「体毛が毛深い問題」の解決に向けて、両親を説得することに全神経を注ぐだろう。今時の小中学生のようにネットを駆使して解決策を提案といったこともできないし、脱毛サロンなんて、今でこそ小中学生でも施術を受けている子もいるが、20年前にそんな話なんて聞いたことない。そもそもサロンはあるのか。あっても料金はバカ高いのではないか。
ということで、きっと母の買い物ついでにドラッグストアへ付いて行き、除毛クリームを熱心に見るくらいに留まってしまうだろう。脱毛サロンは高校生になり、部活に入らずひっそりバイトをし、それで貯めたお金で行くことにするだろう。あと小学生の頃から、いくら校則違反だとしても眉毛は綺麗に整えたい。あと基礎化粧品は正しく使いたい。あと髪型は似合うものにしたい。

こう書き出してみると、見た目に対するコンプレックスが昔から異常だったのだなと実感する。
そして誰しも、ドラマのように詳細に「2周目は……」「4周目は……」と思い描かなくても、ざっくりと「あの時はこうしたかったな」という、やり直したい理想は持っていると思う。

誰もがドラマのように自分の人生を何周かすることができ、その度に自分の人生を理想通りの完璧なものに近づけていけるのなら良いのかもしれない。ただ現実的に、それは難しい、というかできない。当たり前だが、ドラマと違って私たちの人生には2周目が用意されていない。事故であれ病であれ、1度死んでしまったらそこで人生終了なのである。

では『ブラッシュアップライフ』から何を考えるべきなのか。
それは「じゃあ、この先の人生をどう生きていけば、私は満足して自分の人生を終えられるのか?」ということではないだろうか。

ありきたりで聞き飽きたフレーズではあるが、過去に戻ることも、過去をやり直しすることもできない。今の自分がどうこうできるのは、未来だけだ。過去を懐かしんだり、ふとした瞬間に黒歴史を思い出して「ああああああああ!!!!!」と深夜にベッドの中で頭を抱えたり、あの時あっちを選んでいたらどうなっていただろうかと、あったかもしれない未来にタラレバで思いを馳せてみたり。過去を思い返すことはあっても、最悪しがみつくことがあっても、過去は過去でしかなく、それ以上にも以下にもならない。
そうなると、これから自分がどうとでもできる未来について、自分はどう生きていくのか? ということを考えるべきではないかと思うのだ。

やりたいことはあるけど、お金か時間か、はたまたどちらかを理由にして踏み出せていないだとか、今の仕事に満足はしていないけれど、だからと言って何も行動に移せていないだとか、そういう小さなモヤモヤも、過去になりきらなければ自分でどうにかすることはできる。今すぐどうにかできなくても、ちょっとだけ動いてみるとかはできそうだ。

職場が気に入らなければ、とりあえず転職エージェントに登録してみるだけでもいいし、隣人がストレスだなぁと感じるのであれば、すぐに引っ越すわけではなくても不動産屋に行って内見してみるのもいいと思う。どっちもタダだし。
これを書いている私も、フリーランスのライターで働きたいと口ではずっと言っているけれど、なかなか行動には移せていない。「このレベルかよ」と言われたり、面談まで漕ぎつけても「おう、思ってたよりレベル低いな、こいつ」と思われるのが怖いのだ。

でも、最初の1歩を踏み出すのは怖いけれど、踏み出してしまえば案外そのあとは吹っ切れて突き進めるような気もしている。ビビりゆえに、怖がってリスクばかり考えてしまうけど、何か変えたい、変わりたいと思っているならば、えいや! と踏み出してしまってみたらいいじゃないか。どうせ、私たちには1周目しか用意されていないのだから。

……ということを『ブラッシュアップライフ』を観て思った私は、さっそくライターの求人をネットで検索したり、ライターや文章に関する本を再読している。すぐに実にならなくても、とりあえず何かしら動くことが大事だよね! ……と言い聞かせている。

もしまだ未視聴の方がいたら、ぜひ観てほしい。
そして、自分だったら2周目に何をするか? を考えてみてほしい。そこからおのずと、今の1周目を見つめ直すこともできると思うのだ。

そしてアラサー女たちは、バカリズムが散りばめた、懐かしいあれこれにも注目してほしい。悶えてのたうち回ること間違いなしだろう。

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// WRITER'S PROFILE //

AYAKA KAWABATA

川端彩香。関西出身。一番やりたくなかった営業職として約9年働く。元カレに振られたことから自分磨きに勤しみ、その一環でライターに興味を持つ。将来は文章を生業にして生きたい。好きな作家は森見登美彦と有川ひろ。凹んだ時は女芸人のエッセイ。2024年にデンマークへ逃亡予定。

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