考え方ひとつで何事も変わるんだな、ということを妹たちから学んだ話

2024.04.16

一人暮らしをしていた家を引き払って、実家に出戻ることにした。

電子レンジやトースターは学生時代から使っていたもので、ちょうど寿命を迎えていたので破棄したのだが、洗濯機は実家へ持って帰ってきた。理由は、いとこに返却するためだ。

私が転職を機に、大学生時代以来の一人暮らしをするとなったのが、いとこがちょうど大学院を卒業するタイミングだった。いとこは実家に戻ることになっていたので、家電が余ったのだ。初期費用を抑えたかった私は有難く譲り受けることにした。

6年後、私が実家に戻るタイミングで、今度はそのいとこの弟が一人暮らしを始めることになった。もともと私が買った洗濯機ではないので返却することになった。まだ使えるし、でも次に私が一人暮らしするまで実家の倉庫に保管しとくのもなぁ……と思っていたので、ちょうど良かった。

そして私は実家に戻り、洗濯機もいとこが引っ越すまでの数週間、実家の倉庫に保管されていた。

これは完全に私の言い訳なのだが、洗濯機を綺麗に掃除できていなかった。引っ越し当日までに少しずつ掃除を進めておけば良かったものの、私は前職の仲が良かった人たちや、近隣に住んでいる友人と遊ぶことに精を出していた。洗濯機は実家に帰ってから、いとこに引き渡す前に綺麗にすればいいだろうと、甘く見ていた。が、大誤算だった。

私の荷物が実家に届けられた時、私はまだ退去手続きが終わっておらず、実家での荷下ろしは母が立ち会ってくれた。しかし、洗濯機は倉庫の一番奥に入れられてしまった。

実家へ舞い戻ってきた私はそんなことは知らず、翌日にでも掃除に取り掛かろうと思っていたのだが、なんせ一番奥。か弱い私では取り出すこともできない。加えて連日、雨ときた。父が休みの日に外に出してもらおうにも、庭には屋根がないのでそれもできず、結局いとこの家に運ぶ当日に掃除をするしかなくなってしまった。

かろうじて引っ越し前に洗濯槽の掃除は軽くしていたのだが、そんなもので追いつく汚れではなかったらしい。見通しが悪かった且つ、こまめに掃除をしていなかった私に100%非があるのだが、細かく見ていると洗濯槽内はめちゃくちゃ汚かった。私これで洗濯してたのか……とショックでもあった。

しかし、この場に及んで私の過去の洗濯物などどうでもよい。この汚い状態でいとこに洗濯機を差し戻す方が大問題だ。6年前、私に引き渡す際は、おじがめちゃくちゃ綺麗に磨いてくれたらしい。非常に綺麗な状態で私の元へやってきたことは鮮明に覚えている。それが、めちゃくちゃ汚い状態で返ってくる、となると、私を含め、家族も白い目で見られる確率が非常に高い。まずい、まずいぞ。時間は限られている。死に物狂いで掃除しなければ……!

とりあえず雑巾を手に、ひたすら磨いた。洗濯槽も、自分の服が汚れることは気にせず磨き続けた。私の人間性が疑われる=そんな私を育てた両親、派生して妹たちも、これから先いとこ一家に白い目で見られてしまうかもしれないと想像すると、私は無心で磨き続けるしかなかった。

しかし、やっぱりどうにもこうにも汚い。そんな私の様子を不審に思った母が、洗濯機の元へやってきて「もうそろそろ大丈夫じゃないん?」と洗濯槽を覗き込んだ。大丈夫じゃないから、もうかれこれ数十分磨き続けてるんですよ……と心で呟きながら、汚い洗濯槽を見て母に怒られる覚悟をした。母は怒らなかったものの、「こんなん漂白でもせな無理やろ!」と、あらゆる部品を手に取り家の中に入っていった。

一通り洗濯機の中も外も磨き終わり、母がいる家の中に入った。すると母は漂白しながら必死に部品たちの汚れを落としており、私は非常に申し訳ない気持ちと、情けない気持ちになった。かれこれ32年生きているが、この歳になって母にこんなことで世話をかけてしまう私ってなんなんだろう……とへこんだ。すべては私が引っ越し前に遊び惚けていたのが元凶で、自分が悪いということはわかっている。しかし、私は何をやっているのだ……と自己嫌悪にならざるを得なかった。

結局、なんとか渡せる状態まで綺麗になったのは、掃除をし始めてから約40分後だった。

母に手伝わせてしまったこと、引っ越し前にちゃんと掃除をしておかなかったことに対してへこんでいた私は、ちょうど実家に遊びにきていた2歳下の妹に一連の出来事をこぼした。すると、妹はあっけらかんとした顔で言った。

「え、最終的に綺麗になっていとこに渡せたんやから良くない?」

私は目が点になった。え、良いの?

「母に手伝ってもらおうが、前もって掃除してなかろうが、最終的に綺麗な状態で渡せたんやから、何があかんのかわからん。過程がどうであれ、最終的に大丈夫なら何の問題もないやろ」と一刀両断された。私の頭には到底なかった考えで、衝撃だった。

この衝撃を、仕事から帰ってきた5歳下の妹にも伝えた。すると、逆に目を点にしながら私にこう言った。

「え、そんなん1人でやるより母に手伝ってもらって2人でやった方が早いんやから、そっちの方が良くない?」

再び私に衝撃が走った。え、良いの!?

私からすると、妹2人が言っていることは「えらいポジティブやな」という印象なのだが、妹2人からすると、私の考えは「へこむ要素がどこにあるんかわからん」ということだった。そして妹たちそれぞれの言い分も、私に比べてポジティブでありながら、少しずつ違う。お互いが、お互いの考えに「不思議だなぁ」と思う出来事だった。

同じ親から生まれて、ある程度は似たような環境で育ったにも関わらず、この考えや捉え方の違いはどこからやってくるのだろうか? 

同じ出来事も、それを見る角度によって、捉え方によって、受け取った側の考えや気持ちも変わる。どうせ受け取るなら、できるだけポジティブな方で受け取った方が生きやすいだろう。当たり前だけど、いざ自分に取り込もうとすると難しい。すぐに実践はできないだろうが、妹たちのように少しでも物事を前向きに捉えるように、考え方を改めてみようと思う。

妹だけど、もう2人とも立派な大人だ。2人から学ぶことが、これからしばらくの実家暮らしで増えてきそうだなと思った出来事だった。

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// WRITER'S PROFILE //

AYAKA KAWABATA

川端彩香。関西出身。一番やりたくなかった営業職として約9年働く。元カレに振られたことから自分磨きに勤しみ、その一環でライターに興味を持つ。将来は文章を生業にして生きたい。好きな作家は森見登美彦と有川ひろ。凹んだ時は女芸人のエッセイ。2024年にデンマークへ逃亡予定。

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